たとえば小説を読んでいて、「もっとよい方法があるのに」と思ったことはないだろうか?
悪者の正体を主人公に伝えられたなら、ヒロインの逃走を手助けできたなら、もっと上手くいくのに。そう感じたことはないだろうか?
それを可能にするのが、3D小説だ。
3D小説はweb上で連載される小説だが、読み進めるだけではハッピーエンドは訪れない。
あなた――「読者たち」が協力し合い、問題を解決しなければならない。
そうすることではじめて、誰にも、作者にも描けなかったハッピーエンドがみつかる。
これは「ある理由」で私には救いようのない物語だ。
だが、あなたたちなら、必ず幸福なラストをみせてくれると信じている。
2013年5月に行われた、3D小説のプロト版
『It’s A MIRACLE WORLD』の紹介動画です。
ベルの音が聞こえる。
それはありふれた電子音だった。
電話のベル? 2回か3回、鳴り響いて消えてしまう。
ぼくは目をひらく。
部屋は暗い。
カーテンの隙間から射し込む月の明かりで、なんとか辺りの様子がわかる。
時計をみると0時を指していた。眠い。
――そうだ、ベル。
あの音は、どこから聞こえたんだろう。
ぼくはベッドの上で身体を起こす。
と、また。ベルの音が聞こえた。
すぐ近くだ。枕の辺り。
みると大きなくつしたが、ぺろんと落ちていた。ぼくのじゃない。
ベルの音は、そのくつしたの中から聞こえたようだった。
ぼくはくつしたを逆さにしてみる。
シーツにぽとんと、スマートフォンが落ちた。一緒に、まるまった充電コードも出てくる。
――どうしてくつしたに、スマートフォンが入ってるんだろう?
だれかのいたずらだろうか。
ぼくはスマートフォンを手に取った。
ホームボタンを押す。メールが届いていた。
発信元のところには、「制作者」と書かれている。
――制作者?
いったい、なにの?
ぼくはねぼけた目をこすって、メールを開いた。
おめでとう。きみは「読者」に選ばれた。
この物語を救えるのは、きみたちだけだ。
読者?
わけがわからない。
ぼくはしばらく、スマートフォンをいじってみる。
ほとんどまっさらみたいだ。音楽も写真も入っていない。ゲームのアプリもない。アドレス帳には2件だけ登録がある。
ひとつは、「制作者」。
もうひとつは、「主人公」。
主人公ってだれだよ、と呆れた。
ホーム画面にはツイッターのアプリがあった。
ぼくはそのアイコンに触れる。もしかしたら、スマートフォンの持ち主がわかるかもしれない。
パスワードを入れなくてもログインできた。
「少年」という名前で登録されている。アカウント名は「@3d_bell」。
タイムラインには、ひとつだけツイートがあった。
始まりのベルは、7月25日、午前0時に鳴り響く。
よくわからない。
プロフィール欄を確認してみるけれど、そこにあるのも不思議な文章だった。
ルールその1。発言には「#3D小説」をつけてください。
ルールその2。周りのひとの迷惑にならないようにいたしましょう。
その3以降は、とくにありません。
現実味がなくって、まるで夢の中にいるような気分だ。
あんまり眠くて、ぼくはころんとベッドに横たわる。
寝ぼけた頭で文字を入力した。
このアカウントが登録されているスマートフォンを拾いました。持ち主をご存知の方、だれかいませんか?
#3D小説
— 少年 (@3d_bell) 2014, 7月 17
少し迷ったけれど、いちおう、タグもつけた。
ツイートしてすぐに、眠気に逆らえなくて、ぼくは目をとじた。
21歳、大学3年生。
本作の「主人公」。
20歳、大学3年生。
本作の「ヒロイン」。
自称「旅先案内人」。
聖夜協会内では「ドイル」と呼ばれる。